書籍化しました
続きです。
セイが説明できない「失業者」をケインズは「非自発的失業者」と定義しました。
翻訳語でこなれていない、生硬な用語ですが
《「失業者数」「失業率」の完全な測定は難しい》
日本の「労働行政」では「失業者」とは、失業していて「ハローワーク」に登録しながらも、現時点で再就職先が見つからない人を言います。
逆に、解雇されたり、会社が倒産したのでもなく、自分の意思で勤務先を止め、実家に帰り、親が生活費を出してくれるので、好きなことをしながら「引きこもっている」人は、「就職」の意思が無いので「自発的失業者」です。
★「自発的失業者」は統計的に補足できないので、国際基準でいえば、ハローワークに登録していて未だ就職先の見つからない「求職者=非自発的失業者」の比率が3%になったら「ほぼ完全雇用」に近いと発表します。
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《「賃金の下方硬直性」とは》
https://web.archive.org/web/20190624113305/https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8D%E7%9B%AE%E7%A1%AC%E7%9B%B4%E6%80%A7
※図は『マンキュー マクロ経済学』グレゴリー・マンキュー著 P110 より
ケインズによれば、労働者は名目賃金の引き下げ(例えば最低賃金を○○円引き下げる)には激しく抵抗し、名目賃金は下方硬直性という性質を持っているとしたが、物価上昇による実質賃金の引き下げには抵抗しないとし、これを貨幣錯覚と呼んだ。
具体例で説明すれば、今月やっと就職できた。
月給は額面20万円だが、先月より物価が3%上がっているので、実質の月給はマイナス6千円じゃないか・・・などということで労働者は怒らない。
自分の満足できる月給なら文句は言わない。
貨幣錯覚とはこのことです。
「名目賃金」VS「実質賃金」の違いは
経済学用語に「実質」とつけるときは、「物価上昇率=インフレ率」を差し引いた概念です。
しかし、後で述べますが「インフレ」という現象は歴史的に見て20世紀の世界の経済現象で21世紀では長い「デフレ=物価の継続的下落と不況」の時代です。
★ケインズの天才性は
「不完全雇用のもとでも「労働市場」の均衡は成立し得る」という事実を発見し、失業者の増大は「賃金の下方硬直性」にあると見抜き、政府の「財政政策」=財政支出の増大=公共事業の推進で、失業者の減少、「完全雇用」の達成ができると経済政策の処方箋を書いたことでした。
《民間企業が職を与えられないならば、政府が公共事業で職を与えればいいじゃないか》
という、21世紀の今では当たり前のことですが、1930年代の資本主義国家では、わかってても言えない、言わば「禁じ手」でした。
その為に「ケインズ経済学」は、悪意でもって「修正資本主義」と呼ばれました。
「資本主義の裏切り者(怒)」というわけですね。
今でも「修正」という表現は、「悪意」で使用されます。
「純粋日本人」の保守が、韓国の言う「慰安婦」は自発的売春婦であって「性奴隷」ではないだとか「南京大虐殺」には、歴史資料的根拠がないというと、「あいつは「歴史修正主義者だ」と罵られるのです。
★更に、ケインズの凄いところは、政府の財政支出=公共事業の積極的活用の狙いは、その公共事業が「呼び水」となって「有効需要」を創出し、民間企業の景気も同時に底上げさせることも見抜いていたことです。
凄く単純な「経済モデル」を作ります。これはかつて私の恩師が酒の席で冗談半分に行ったことですが
「美空ひばり(故人;昭和の大歌手)が銀行を信用できないので、デビュー以来のギャラを自宅の金庫に全て保管していたとする。ある時大震災が起きて、ひばりの自宅の床がぬけ、おまけに自宅の土地に巨大な地割れ(クレパス)ができて、金庫が地下100メートルの地中に落ちてしまった。ひばりが、政府に「何とかしてくれ」と泣きつく。
そこで政府は失業者1000人を雇って、スコップで土を掘らせて、金庫を引き上げる。
どうだ!これで、失業者1000人に日給を払えるだろう(笑)」
その先生の酒に酔った時のお約束の「与太話」でしたが、ケインズが狙った公共事業による、失業者対策と完全雇用の狙いと本質は同じです。
続きます。