EUとアメリカの状況
欧州中央銀行(ECB)は9月に2度目の利上げ
https://www.asahi.com/articles/ASQ98736VQ98ULFA009.html
欧州中央銀行(ECB)は8日の理事会で、政策金利を0・75%幅引き上げ、年1・25%にすると決めた。
1999年のユーロ導入後、0・75%幅の利上げは初めて。直前にロシアから欧州への天然ガス供給が止まり、エネルギー不足で物価高(インフレ)が加速する懸念が広がっていた。
欧米の相次ぐ大幅利上げで、金融緩和で金利を抑える日本との違いがさらに鮮明になった。
ECBは前回7月の理事会で11年ぶりの利上げに踏み切り、6年にわたり0%だった政策金利を0・5%にしたばかり。8日の会合後の声明には、今後数回の理事会で利上げを続ける見込みだと記した。
ECBはこの日、3月時点で前年比5・1%と予想していた22年のインフレ率を8・1%に修正。ラガルド総裁は会見で、「高いインフレ率は経済全体の消費と生産を鈍化させる」と危機感をあらわにした。(転載ここまで)
画像は2度目の利上げを発表したラガルド総裁と人となり
アメリカのインフレの方が深刻
G7でアメリカ以外の5カ国のインフレは全て「コストプッシュインフレ」ですがアメリカは「ディマンドプルインフレ(需要が物価を引き上げるインフレ)」なのでたちが悪いです。
https://jp.gdfreak.com/public/detail/sp010001000119900205/3
アメリカ合衆国のGDPと人口の推移より
2020年時点のアメリカの産業構造を見ると、製造業が10・9%で「モノ作り」は一割しかやっていません。
結論から言うと、戦後の1960年代繊維に始まり1990年代の半導体に至る約30年代に渡る「日米貿易戦争」でアメリカの製造業は敗退に次ぐ敗退を重ねてほぼ絶滅寸前です。
生き残っているのは兵器・軍需産業と一部の自動車産業ですが、北米大陸での乗用車の販売台数も昨年トヨタがGMを抜いてトップに立ちました。
多くの日本人が鈍感なだけで、アメリカの財界や議会、政府高官は「ジャップに復讐された(怒)」と思っているんですよ。
さて「その他サービス」を除いて最も比率が大きいのが14・1%の商業、飲食、宿泊です。
この部分の雇用状況を見ると
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66196?site=nli
米国労働市場の新型コロナからの回復は道半ば
経済研究部 主任研究員 窪谷 浩
2020年12月03日
非農業部門雇用者数(前月比)も新型コロナ流行前は10年10月から20年2月まで1939年の統計開始以来最長となる113ヵ月連続で雇用が増加していたが、外出制限などで大きな影響を受けた娯楽・宿泊業をはじめサービス業を中心に3月には▲137万人減少し、金融危機時の最大の落ち込み幅であった09年3月の▲80万人を大幅に上回った。
(転載ここまで)
雇用の減少とはアメリカの場合、ストレートに解雇ですから「失業者の増加」です。2009年3月の雇用の減少を上回ったと言うことは「リーマンショック時の失業」を上回ったと言うことですからアメリカ経済史上、戦後最悪でしょう。
グラフで見ると 赤字での加筆、囲み、矢印は筆者
コロナで832万人も雇用が減少している娯楽・宿泊の殆どが飲食業です。
アメリカ政府は「もうコロナは終わった」と言う認識で、飲食業の再開の制限を解除したので、顧客は殺到して景気は回復して過熱気味です。
しかし一旦解雇した従業員が自動的に元の職場に戻るわけでは有りません。
コロナで死亡したり、回復しても後遺症で働けない人もいます。またワクチン接種の結果、死亡したり副反応で働けなくなった人も多数いるでしょう。
単純労働者の絶対的な不足が賃金の急騰をもたらした結果のインフレ
アメリカ以外のG7 諸国、EU(ドイツ、フランス、イタリア)イギリス、カナダ、の様なエネルギー価格高騰による「コストプッシュインフレ」では有りません。
景気は良いから「需要」は有る、「労働需要」は有るのです。しかしコロナで2年前に解雇した従業員が戻ってこない絶対的かつ深刻な「人手不足」なのです。
ですから、人手を確保する為に時給や最低賃金を大幅に上げざるを得ない。その結果利益を確保する為に、提供する飲食サービスの価格も上げざるを得ません。
弁護士などの専門家や金融業に勤務するエリート達は別にして、飲食業以外でも人手不足で単純労働者の奪い合いになります。
その結果、「単純労働者」を必要とする広範な業種で「賃金の大幅アップ」とそれに伴う「生産財やサービスの価格」の上昇が起きます。
アメリカ全土での物価上昇の為に「実質賃金」は目減りします。単純労働者は食べていけないので「賃上げ」を要求する。経営者は止められると困るので賃上げを呑む、その結果また「生産財やサービスの提供価格」を上げざるを得ないという「悪循環」が起きているのです。
アメリカのインフレは相当たちが悪いです。イタリアを筆頭にしたG7諸国の「コストプッシュインフレ」を病気に例えると、いつかウクライナ紛争が終結してエネルギー価格が落ち着けば解消するので、こちらは病気に例えると「入院が必要な熱中症と夏バテの併発」でアメリカの場合は「慢性腎炎」のようなものです。
アメリカのネオリベ(新自由主義)政策の因果応報の結果
こうなったのも1981年のレーガンが始めたネオリベ(新自由主義)政策が30年以上にわたって徹底的に推進された結果です。
①富裕層と大企業に対する恒久的な大幅減税と社会保障の削減または廃止、この結果貧富の格差が広がり、アメリカから中産階級が絶滅させられました。
②無制限な「民営化」による「医療の完全民営化」と「公的医療の消滅」で元々国民健康保険の無かったアメリカでは、まともな医療を受けられずに死亡する国民が年間4万人を超えています。
③「公立学校の民営化」で教育の質が落ちて「良質な単純労働者」を育成することが困難になりました。
トランプが罵ったメキシコ国境を越境してくる不法移民は英語ができないので「単純労働者」にはなりません。
これらの「亡国の政策」が徹底的に30年以上にわたって続けられ、そこにコロナがダブルパンチで重なったので、ある意味、因果応報です。